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歴史

個人的な見解により現在までの WWW の歴史を以下のような 3 つの期間に分類する. まず 1989 年に CERNTim Berners-Lee が World-Wide Web Project を提案してから, NCSA が Mosaic 1.0 for X windows をリリースする 1993 年 6 月までを黎明期と呼ぶ. その 1993 年 6 月から, NCSA からその開発の中心的なメンバを引き抜いて Mosaic Communications 社 (現在 Netscape Communications 社) が設立される 1994 年 4 月までを膨張期と呼ぶ. そして 1994 年 4 月以降を戦国期と呼ぶ. 以上の分類にしたがって, WWW の発展の歴史を見ていく.

WWW の黎明期においては CERN が WWW 発展の中心的な存在であった. もちろん WWW 以前にもハイパーテキストを使ったシステムは考えられていたが, ほとんど研究レベルに留まっていた. WWW が発展した理由は世界中がちょうどインターネットで結ばれ はじめていたという時期が良かったということとともに, CERN での WWW プロジェクトが以下のように 具体的かつ明確な目的を持っていたことであると考えている.

CERN のように加速器を使って高エネルギー物理を 研究するような Big Science では, 世界中から研究者が 集まって実験を行ない, 実験が終れば研究者たちは世界中に 散らばってしまう. このように世界中に分散する研究者たちの間の共同研究を 円滑に進めるための枠組として, 1989 年 Tim Berners-Lee によって World-Wide Web プロジェクトは提案された (5).

WWW は徐々にだが確実に成長していった. 黎明期ではもっぱら Line Mode (すわなちキャラクタベース) の WWW クライアントが中心であった. telnet で info.cern.ch にアクセスして CERN で走っている Line Mode の WWW クライアントを 使うこともかなり一般的であった (6).

1992 年の秋頃には NCSA の人たちが WWW に注目し, Mosaic の開発をはじめた. NCSA は全米に 5 つある Supercomputer Center の一つとして Supercomputer を遠隔地から使ってもらうという形で存在していて, CERN と似た立場にあった. NCSA では各種ツールを作って (7), 分散した人々の共同研究を進めようとしていた. WWW はそのような目的にちょうど合致し, Mosaic の開発に到った.

そして 1993 年 6 月, Mosaic の最初の正式なリリースである Mosaic 1.0 for X Window が発表され, 膨張期に入る. Mosaic はそのグラフィカルなインターフェースと 幅広い UNIX ワークステーションの プラットフォームをサポートしたことにより, 一気にインターネットの コミュニティに広がっていった. さらに 1993 年の秋には Windows 版, Macintosh 版をリリースし, さらに WWW の裾野を 広げていった. この頃にはインターネットのコミュニティだけではなく, 一般の注目も集めるようになっていった. これ以降 WWW の世界は急速に 膨張していった.

Mosaic が出てからは WWW の発展の中心はその重心を NCSA に大きく移した. もちろん CERN も中心の一つであったが, NCSA は次々と新しいバージョンの Mosaic を出し, この頃の WWW 発展の原動力となった.

しかし Netscape Communications 社にその開発の中心的な メンバを引き抜かれた 1994 年春以降, NCSA は その求心力を徐々に失っていった. Mosaic のサポートを続けてはいるが, 新しいソフトの出るペースも落ちてしまった. やはりこういった技術をリードするためには, 新しい技術をある程度素早く形にする開発力も必要である. NCSA が 求心力を失って以来, WWW に関してはいろいろな 動きが出て, いわば戦国時代のような様相を呈している.

著者らは現在では CERNMIT が 1994 年 10 月に設立した W3C (World-Wide Web Consortium) ([3]) と IETF (Internet Engineering Task Force) がこれからの WWW の発展の方向を握るのではないかと見ている. ちなみに W3C の Director は CERN で 最初に WWW を提案した Tim Berners-Lee であり, この組織は X Consortium をモデルにしている. IETF はインターネットにおける標準化に関して中心的な役割を果たしており, HTTP, HTML, URI の標準化を進めている. これら以外に 企業としては Netscape Communications 社や, CommerceNet (8) の中心的な企業の一つである EIT (Enterprise Integration Technologies) 社などが WWW に深く関わっている.

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