WWW の課題と将来
以下では WWW の課題と将来に関して, 標準化の動向 ([4]) を
中心に概観していく.
インターネットの商業利用が企業の関心を集めているが,
WWW を電子取引などの商業利用するためには,
セキュリティを確保した HTTP を実現するのが本質的に必要である.
この分野では, EIT 社の提案する SHTTP (Secure HTTP) と
Netscape Communications 社の提案する SSL (Secure Socket Layer)
が有望であるようだ. これらのどちらかあるいは両者を
組み合わせたものが
W3C などで採用されればそれが実質的な標準になると考えている.
ただし暗号化の技術に関するアメリカの輸出規制などもあり,
最終的にどうなるかを予測するのは難しい.
URL に関しては
IETF の URI ワーキンググループで検討され,
現在は RFC1738 ([5]) にまとめられている. しかし
URL では文書の位置 (どのマシンのどの ``path'' にあるか)
やどのプロトコルでとってくるかに依存している.
このことは,
URL で指定されると, 全く同じ文書が近くにあっても,
指定されたところに取りにいってしまうとか,
置かれる場所が変わってしまうと
アクセスできなくなってしまうなどの
問題を持つ.
そこで文書の位置やプロトコルに依存しない URI
(Uniform Resource Identifier) を
実現しようと
IETF の URI
ワーキンググループで
URN (Uniform Resource Name) などが検討されている ([6]).
具体的には DNS (Domain Name System) と似た以下のような形で
実現するようである.
WWW クライアントなどで URN で文書にアクセスする時に
何らかのサーバに対して URN を URL に具体的に解決してもらい,
その URL で文書を取得する.
ここで URL が IP Address, URN が Domain Name に相当する.
この URN と URL を結びつけるリソースエンコーディングの
情報を記述する方法は URC (Uniform Resource Characteristics)
として検討されている.
HTML の初期のバージョンではインタフェースを
損なわないために, 処理に時間のかかる高機能な要素は少なかった.
しかし WWW もこれだけ広がりいろいろな機能に関する要望も
出てきたことや,
計算機の処理速度の向上などにより,
高機能化に向かう様子を見せている.
現在一般的に使われている HTML である
HTML 2.0 が Internet-Draft ([7]) として公開されている.
IETF ではさらに HTML に関する議論が続けられており,
図, 表, 数式 などがサポートされている
HTML 3.0 (18)
の Internet-Draft ([8]) も公開されている.
最近 MBone (Multicast Backbone) という
新しい技術が出てきている ([9]).
これはインターネット上の仮想的な multicast のネットワークであり,
今までインターネット上では難しいと思われていた
動画や音声による放送や, 多人数による会議などを実現した.
この MBone は今までコンピュータが取り扱うには不向きであると
思われていた動画や音声のような冗長な情報に
むしろ向いており, 新たな展開を見せている.
著者らは, ある側面から見ると情報の形態には二種類のものがあって,
ちょうど WWW と MBone はそれら二種類の形態の情報のやりとりに
関してうまく互いを補いあう形になっていくのではないかと考えている.
一つ目の情報の形態は, テキストなどを含む,
冗長性が少なく, 厳密に取り扱う必要のある
情報形態である. この形態の情報は冗長性が少なく
蓄積にも向いている.
WWW の枠組は, このような情報を他から容易にアクセスしやすいように
蓄積し, やりとりすることを可能にする.
もう一つの情報の形態は, 音声や動画などを主とする
冗長性の高い, 人間が日常生活で使っているような
情報形態である.
この形態の情報は冗長性が高いので蓄積には向かないが,
厳密に取り扱わなくてもよく, 多くの場所に届ける場合にも
問題が少ない.
MBone のような枠組は,
放送型や会議型のアプリケーションの動画や音声などのデータなどの
ように「流れていく」ような情報のやりとりを可能にする.
すでに WWW と MBone との興味深い連係の例がいくつか現れており
(19),
これからもさらに WWW と MBone のそれぞれの特徴をうまく
生かしたような組み合わせが出てくるのではないかと考えている.
WWW の将来は, このような標準化などに加えて
ネットワークのインフラストラクチャにも関わってくると考えている.
WWW を含むインターネットが健全に成長していくには,
ネットワークの回線幅が十分あることが重要である.
残念ながら, 日本においてはその回線幅が十分であるとは
いい難い. その一つの原因は,
日本ではネットワーク, すなわち通信にかかる費用が
電話代を含めて高過ぎる
ことにあるように感じている.
しかしこの問題は現在注目が集まっており,
将来的にはかなり良くなるのではないかと
著者らは楽観的に見ている.